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【書評・要約】「ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か」エリヤフ・ゴールドラット著


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出版当時、勢いのあった日本がさらに勢いを増すことを恐れ、17年間に渡って日本語訳による出版が禁じられた本書。

それだけに、(私のような)業務改善に携わったことのない人にもわかりやすく、読みやすい一冊です。

「ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か」

 

本書の紹介

【基本情報】

題名:「ザ・ゴール 企業の究極の目的とは何か」

著者:エリヤフ・ゴールドラット

頁数:552p

出版社:ダイヤモンド社

発行日:2001/5/17(第1刷発行)

 

【あらすじ】

主人公は某メーカー工場の所長。会社の経営状況悪化により、特に状況の悪い主人公の工場が閉鎖の危機に立たされる。工場再建の猶予期間は3ヶ月しかない。そんな中、主人公は以前から仕事中心で家庭を顧みない傾向にあったため、夫婦関係が悪化し、妻が出ていってしまうという事件まで起きてしまう。公私ともにうまくいかず、工場再建を諦めかけていた主人公だが、空港で偶然大学時代の恩師に出会うことで物語は大きく進展していく。恩師からのアドバイスをもとに、部下たちと工場再建に奮闘。その過程で多くを学び、気付きを得ていくことになる。果たして工場閉鎖は避けられるのか?家庭崩壊の危機は・・・?

 

本書のポイント

「企業の目標(ゴール)」および「生産的」とは何か?

「企業の目標(ゴール)」とは、お金を儲けること。

「生産的」とは、目標(ゴール)に近づけるための要素がある状態のこと、反対に遠ざける要素がある状態は「非生産的」となります。

つまり、企業においては、お金が儲けられる状態に近づける行為を「生産的な行為」と表現することができるということになります。

 

企業(特に工場等の現場)が目標に向かうための3つの指標

スループット

「販売を通じてお金を作り出す割合」のこと。

「生産」ではなく、「販売」を通じてというところがポイント。販売してはじめてお金が入ってくるので、お金を儲けるという目標に向かっているかの判断には重要となるポイントとなります。

②在庫

「販売しようとする物を購入するために投資したすべてのお金」のこと。

「購入するために」という表現は本文そのままでわかりにくいですが、要するに「製造プロセスに中にあるお金」のこと。工場の中に使用される機械やロボットも売ることができるのであれば、その価値分は在庫扱い。もちろん、製品の原材料や製造中の製品も在庫となります。

③業務費用

「在庫をスループットに変えるために費やすお金」のこと。

工員の労働時間(給料が発生している待機時間も含める)や、工場で使用している機械やロボットの減価償却費など、物として売れないもののこと。

 

工場にとって大切なのは「スループット」を増やし、「在庫」「業務費用」を減らすこと。この指標を確認することで、工場の生産性を確認することができます。

 

依存的事象(従属事象)と統計的変動

<依存的事象(従属事象)>

とある事象Aを考えたとき、その事象Aが起こる前にはまた別の事象Bが起きていることが必要である(依存している)状態の事象のこと。

<統計的変動>

同じ事象(作業)でも、人間の関わるものにはかかる時間にばらつきが出ること。

 

これら依存的事象と統計的変動があることを考えると、工場の一つ一つの作業(事象)において、常に工員が忙しく働く必要のあるギリギリの労働力しか配置しないのは問題であることがわかります。それぞれ統計的変動のある複数の作業ABC(作業順はA→B→C)が依存的事象であるとすると、作業Aが遅れると作業Bの開始が遅くなり、さらに作業Bが遅れると作業C開始の遅れはさらに大幅なものとなります。この統計的変動の連鎖による影響は作業数が多いほど大きくなり、すべての作業それぞれに最低限必要な労働力だけを配置していると、この影響(作業間の遅れなど)は解消するどころかどんどん大きくなってしまいます。その点からも、余力が必要な作業も出てくることになるのです。

 

工場の能力を左右する「ボトルネック」の扱い方

本書では、工場内のリソースを「ボトルネック」と「非ボトルネック」に分けています。

ボトルネック」とは、その処理能力が、与えられている仕事量と同じか、それ以下のリソースのこと。「非ボトルネック」とは、与えられている仕事量よりも処理能力が大きいリソースのこと。

「非ボトルネック」の処理能力がどれだけ高くても、製品製造ラインに「ボトルネック」がある以上、全体の処理能力は「ボトルネック」が決めることとなります。つまり、「ボトルネック」の状況を改善しない限り、工場そのものの能力を高めることはできないのです。

では、「ボトルネック」の扱いをどのように考えていけば良いのか?重要なことは次のとおりです。

ボトルネック」における時間や作業を無駄にしないこと

具体的には、まずは「ボトルネック」は絶えず稼働させ、待機時間がないようにすること。次に「ボトルネック」での作業は、「非ボトルネック」での作業以上に細心の注意を払い、不良品を出して時間を浪費することがないようにすること。そして、前リソースですでに不良品となっているものを「ボトルネック」に通すことで時間を浪費しないことです。

ボトルネック」の負荷を減らすこと

具体的には、「ボトルネック」で現在行っている作業を、部分的にでも「非ボトルネック」で担当できないかについて検討・工夫を行うこと。

また、内部で解決できなければ外部に頼ること。「ボトルネック」での作業を一部でも下請けに出すのです。その分生産コストは上がりますが、効率が改善することでスループットが増加し、トータルではプラスとなり得るため、検討の余地は充分にあるのです。

ボトルネック」の処理能力を基準に生産計画を立て、資材投入のペースをコントロールする

ボトルネック」では処理能力を最大限に活用すべきですが、「非ボトルネック」ではそうはいきません。「非ボトルネック」がフルパワーで稼働するペースで製品製造の資材を投入してしまうと、「ボトルネック」での処理待ちがどんどん溜まることで販売まで到達しない無駄な在庫が増え、キャッシュフローが悪化してしまいます。よって、「ボトルネック」の処理能力を基準に生産計画を立て、資材投入のペースをコントロールすることは非常に重要となるのです。

 

これらにより、「ボトルネック」をうまく扱い、効率良く稼働させることは工場全体の能力を底上げすることにつながり、ひいてはゴール(お金を儲けること)に向かっていくことになるのです。

 

バッチサイズを小さくすることで、リードタイムを短くする

バッチサイズとは、作業の処理単位のこと。

バッチサイズを小さくして仕掛品の流れのスピードを上げると、製造プロセス中の仕掛品の在庫が減り、リードタイムも圧縮することができます。それにより、顧客からの注文にも素早く対応することが可能となるため、信頼を獲得でき、新規の受注も期待できるようになります。

当然、バッチサイズが小さくなるということは、作業に取り掛かるための準備の回数も増えますが、「非ボトルネック」の余力をもって増えた分の準備を行えば問題になりません。余力分を無駄に待機時間とするより、効率的に使えるならばそうするべきなのです。

 

制約条件に注目してスループットを向上させる5つのステップ

本書では様々な課題に直面し、その内容が多岐にわたることから、「ボトルネック」を始めとするそれら課題となる部分や内容を、「制約条件」と呼ぶようになります。

その「制約条件」に注目し、スループットを向上させるための5つのステップは次のとおりです。

①制約条件を見つける

②制約条件をどう活用するか決める

③他のすべてを②の決定に従わせる

④制約条件の能力を高める

⑤ここまでのステップで制約条件が解消したら①に戻る

これら5つのステップを繰り返し行うことで、一つ一つ制約条件を解消し、スループットを向上させていくことができます。

 

最後に

本書は一つの工場での課題を解決していく話の展開でしたが、ここで学べる内容は、もっと大きな範囲(例えば企業全体の話)や小さな範囲(例えば一個人の話)でも応用できるものであるはずです。実際、本書は様々な業界で読まれており、2014年時点で全世界に1,000万人以上の読者がいるとされています。今回ここで紹介できたのは一部であり、工場再建の裏で進行する主人公夫婦のストーリーも同時に楽しめる内容になっているので、少しでも気になった方は是非実際に手に取って読んでいただければと思います。