【書評・要約】「これからのDX<デジタルトランスフォーメーション>」 内山 悟志 著
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「DXって何?」という状態から読める入門書。
基本的には見開き1頁に1テーマという構成で見やすく、図も多く使われているためイメージしやすい内容になっています。
「これからのDX<デジタルトランスフォーメーション>」
- 「これからのDX<デジタルトランスフォーメーション>」
本書の紹介
【基本情報】
題名:「これからのDX<デジタルトランスフォーメーション>」
著者:内山 悟志
頁数:160p
出版社:エムディエヌコーポレーション
発売日:2020/6/21(第1刷発行)
【概要】
これから本格的に活発化すると言われている「DX=デジタルトランスフォーメーション」。あらゆる企業、さまざまな立場のヒトには何が求められるのか?その背景、実践パターン、具体的手法、チョークポイントから未来を導く!
本書のポイント
DXの概要
DXとは?
経済産業省が発表した「DX推進ガイドライン」によると、DXとは、「データとデジタル技術を活用して、製品やサービス、ビジネスモデルを変更するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と説明されている。
この説明からもわかるように、DXは、データやデジタル技術の活用が目的(ただのIT活用による業務の効率化)ではなく、それを手段に、ビジネスを、製品・サービスを、業務プロセスを、組織を変革していくことを目的としている。
DXの実践と環境整備
目まぐるしいスピードで変化する世の中に対応していくには、「DXの実践」と「DXの環境整備」を並行して進めることが重要となる。
具体的なDXの実践は次の2種類。
「漸進型イノベーション」
主に既存事業において、業務の高度化や顧客への新規価値の創出等をすること
「不連続型イノベーション」
新規ビジネスの創出や、ビジネスモデルの変革をすること
具体的なDXの環境整備は次の2種類。
「企業内変革」
企業内の意識・制度・権限・プロセス・組織・人材等の変革
「IT環境の再整備」
既存IT環境とITプロセスの見直し・シンプル化・再構築等
デジタル化が企業におよぼす3つの影響
①既存事業の継続的優位性の低下
ライバル企業がDXの推進により、これまでにない優位性を確保すれば、取り残された企業は当然優位性を失うことになる。その前に、「漸進型イノベーション推進力」を持って、既存事業の高度化や変革をすることが求められる。
②ディスラプターによる業界破壊の可能性
ディスラプターとは、新しいビジネスモデルで既存業界の常識を破壊してしまう新興勢力のこと。有名な例としては、ネット通販のアマゾンにより、多くの小売店が大打撃を受けた。今後はどの業界にも同じような可能性がある。そこで、「不連続型イノベーション想像力」により、自らの既存事業を破壊してしまうような新規事業を創出することが必要になる。自分がやらなければ、ライバル企業が先にやってしまう。
③デジタルエコノミーによる社会全体の構造変革
デジタル化による社会システムや産業構造の急速な変化についていけるかという問題。その変化のスピードは、これまでに起きた産業革命よりもはるかに速いが、そこについていけなければ消滅の危機に面することとなる。そうならないためにも、「変化適応力」を身につけ、変化する時代に合わせて自身も継続的に変革する必要がある。
DX実践のためのヒント
DXを推進して実現したいこと(ビジョン)を定める
闇雲にDXを推進しようとしても、必ずといっていいほど迷走する。迷走し続けないためにも、「5年後や10年後に自分が何を実現していたいのか」というビジョンを定めることが重要となる。ビジョンが言葉で示されていれば、迷走は避けられる。
DXの対象となる4領域
DXの対象領域は4つに分けられる。
まず最初の2領域が、既存の事業および顧客層を対象とした漸進型イノベーションに該当し、新規価値を提供する「新たな顧客価値の創出」と、従来価値を提供する「社内業務の変革」。デジタル技術を用いた製品・サービスの改良や価格・課金方式の変革、仕入れ・作り方の変革や顧客サポートの変革など、デジタル技術を用いて既存を深化をさせる領域。
そして残り2領域が、新規の事業および顧客層を対象とした不連続型イノベーションに該当し、「新規ビジネスの創出」「新規市場の開拓」。新規価値の創出や新事業の創造、顧客ターゲットの変革や新規市場の開拓など、デジタル技術を用いて新しいものを探索する領域。
デジタル化の4つの潮流
①社会・産業のデジタル化
取り組むべきは「ビジネストランスフォーメーション」
デジタル技術やデータを活用して、従来の事業や業務を大きく変革する。
例としては、製造工程全般のデジタル化によるスマートファクトリーなど
②顧客との関係のデジタル化
取り組むべきは「カスタマーエンゲージメントの変革」
顧客との間に築かれた深い関係性を変革する。
例としては、AIやチャットボットを活用した自動応答など
③組織運営・働き方のデジタル化
取り組むべきは「フューチャーオブワーク」
新しい働き方と組織運営を切り開く。
例としては、副業・兼業や在宅勤務・テレワークなどの多様な働き方の許容など
④デジタル化に対応したビジネス創造
取り組むべきは「デジタルエコノミーへの対応」
デジタル活用を前提としたビジネスモデルを創出する。
例としては、デジタル化による顧客体験の高度化や商品以外の付加価値の提供など
「データ」に着目したDX実践パターン
①モノのデータの活用
「監視・可視化」→「制御・自動化」→「最適化・自律化」の3ステップがあります。具体的には、「監視するだけ」→「指示どおり自動で稼働」→「機器自身が判断して行動」という順で高度化する。
②ヒトのデータの活用
ヒトの「発言」「行動」「生体」といったデータを活用。
具体例は、SNSの発言やポイントカードを通じた購買行動の分析によるマーケティング、脈拍・心拍数・体温などの生体情報を活用した健康増進アプリの開発など。
③画像・音声のデジタル化
画像・音声のデータは、大容量記憶装置や高速データ通信の出現、スマートデバイスの処理能力の向上などにより活用が進んでいる。
④有形物のデジタル化
3Dプリンタや3Dスキャナなど、3次元データ処理技術を活用する分野。
金型や建築・土木、医療器具や食品など、様々なものの製造・計測等が容易になってきている。
⑤デジタルコンテンツ活用基盤
デジタルコンテンツが普及した現代では、それらの保管、集約・再利用、流通・供給、連携できる基盤が求められている。
⑥経済的価値の交換
お金をデジタル化する仕組みが次々に登場している。
仮想通貨や電子マネー、キャッシュレス決済などがある。
⑦付加価値データの有償提供
分析や組み合わせにより、既存データに付加価値を与え、有償提供するビジネスモデルが注目されている。
オープンデータを活用することで付加価値を持つデータを生み出したり、自ビジネスの優位性向上にために得たデータを有償提供するなどの方法がある。
「つながり」に着目したDX実践パターン
①オンデマンド・サービス
オンラインを通じて、利用者が必要なときに必要なサービスを受けられるサービス。
ビデオオンデマンドやオンデマンド印刷、オンデマンドバスなどが例としてあげられる。
②優位な自社業務のサービス化
社内業務向けに開発したシステムや蓄積したノウハウを、サービス化して有償で提供すること。
アマゾンのAWSや、ゼネラル・エレクトリックのPredixも、自社向けのシステムからスタートしたサービスである。
③APIエコノミー
APIとは、あるソフトウェアの機能などを、他のプログラムから呼び出して利用するための手順やデータ形式などを定めた規約のこと。
企業は自社サービスのAPIを公開し、他社サービスに組み込んでもらう等することで、連携の効果による収益を得ることができる。
④アグリゲーション・サービス
複数の企業のシステムやwebサイトからデータやコンテンツを集めてきて一元的に閲覧したり、連携して利用したりできるサービス。
例としては、価格比較サイトの価格ドットコムなど。
⑤マッチング・エコノミー
サービスの提供者と利用者結びつけ、取引や販売の仲介をするサービス。
例としては、商材・サービスマッチングの「Wizbiz」や求人・求職マッチングの「WANTEDLY」、フリマアプリの「メルカリ」など。
⑥シェアリング・エコノミー
有形無形のモノや権利を共有し、必要なときに必要な人が利用できるようにする経済の形のこと。
例としては、民間宿泊サービスの「Airbnb」、駐車場を一時利用できる「Akippa」、会議室やイベント会場を共有する「スペースマーケット」など。
⑦キュレーターズ・セレクション
プロの目で選んだものを購入・利用するサービス。
例としては、プロのスタイリストが選んだ洋服が定期的に届く「airCloset」や、国内外90以上のメディアから経済ニュースを配信する「NewsPicks」など。
DX推進に求められる5つの企業内変革
DXを推進するにあたって必要となる企業内変革には、「意識」「組織」「制度」「権限」「人材」の5つがある。
意識の変革
企業内に意識変革を起こすためには、次の3つの方法が考えられる。
①啓発型アプローチ
先進事例の勉強会や情報発信、IT企業による技術のデモンストレーションなどにより、デジタル活用への気付きを喚起するアプローチ。
②参加型アプローチ
社内アイデア公募やワークショップなどを実施し、幅広く参加を募ることで、DXを自分事として考える機会をつくるためのアプローチ。
③対話型アプローチ
デジタル技術の活用に関する社内相談窓口を設置するなどの公式な対応に加えて、日ごろの対話の中で意識づけするなどのアプローチ。
組織の変革
DX推進組織には、IT部門が中心となるパターンや事業部門が中心となるパターンもあるが、より高いDX推進効果を得るためには、明確な目標やミッションを持たせた推進組織を専任スタッフで構成することが有効。そしてその存在を全社に周知することで、DX推進組織が周囲から協力を得られる環境を整えることも重要となってくる。
制度の変革
DX推進に向けた制度の変革には大きく2つの方向性がある。
①新しい制度を導入する
社内インキュベーション制度の導入など
②既存の社内規定や制度の一部廃止や緩和等の変更を行うこと
失敗を恐れずに挑戦できるような人事制度の導入など
権限の変革
DXを推進する際、従来の権限規定が、意思決定のスピードや活動の自由を阻害することがある。足かせとなる権限の見直しが必要。
例えば、一般的な組織では上位に権限が集中しているが、DXの推進では多様性を持った人材やチームが自律的に動くことが求められるため、権限を中位や下位に委譲し、分散させることが有効となる。具体的な方法としては「イノベーション予算枠」を確保すること。自由に裁量できる予算枠をあらかじめ確保することによってスピード感、柔軟性のあるDX推進が可能となる。
人材の変革
デジタル人材の確保には、「外部からチーフデジタルオフィサーを登用する」「社内でDX人材を育成する」「同業他社やIT企業から中途採用する」「配置転換や社内ローテーションする」等が考えられるが、全体的なデジタル人材の不足による採用活動の激化や、人材育成する場合は時間を要することから、中長期的な準備が求められる。
また、DXを推進するためには、アイデアを生み出しモデル化する「デザイナー」、技術的な目利き力と実践力を持った「デベロッパー」、人や組織を動かしながら全体を統括する「プロデューサー」の3タイプの人材がバランス良く配置された小規模なチームが必要となる。
DXの進め方
DX推進で陥りやすい「5つの罠」
DXを推進する中で、よく直面する阻害要因が5つある。
①DXごっこの罠
「何のために、どこを目指してDXを推進するのか」を明確にしないまま話を進めてしまう。
②総論賛成・各論反対の罠
誰もが「DXは重要だ」と言うが、いざ自分の部門・業務に影響がおよぶ各論になると反対するか、静観を決め込む。
③「あとはよろしく」の罠
トップがDX推進組織を起ち上げた後、すべて任せてその後の支援を怠る。
④カタチから入る罠
DX委員会の設置、社内アイデア公募の活動など、表向きには取組みの姿勢を見せるものの、活用されない、続かない。
⑤過去の常識の罠
人の評価、投資判断の基準、組織文化など、これまで成功してきたやり方や考え方にのっとり、変えようとしない。
「5つの罠」に陥らないための処方箋
①「WhyとWhere」の徹底的な追求
「なぜ自社にDXが必要なのか」「DXによって、どこを目指すのか」について、経営者から従業員まで全員が納得するまで徹底的に議論し、思いを共有すること。
②小さな取組みから始める
まずは小規模からはじめ、その成果をアピールしながら徐々に大きな施策へと展開していくこと。
③賛同者・協力者を見つける
小規模の取組みからの追従者を大切にしながら、賛同者・協力者を一人ずつ巻き込んで活動を拡大していくことで、全社的な動きにつなげていく。
④実体験を重視する
書籍等で学んだり、会議等で検討するだけでなく、実際に制作したり利用して実体験から学びを得ること。
⑤外の世界に触れる
外部と接触し、自社・自組織・自分を客観的に見る目を養うこと。
「リーンスタートアップ」で進めるDX
変化が多く、不確定要素が多いDX推進においては、評価サイクルの高頻度化や環境変化への柔軟な対応が優先されるべきであり、従来のPDCAサイクルは必ずしも有効ではない。
そこで有効となるのが「リーンスタートアップ」である。「リーンスタートアップ」とは、コストをかけずに試作品をつくり、顧客の反応を反映するサイクルを短期間にくり返すことで、事業化の初期段階に見られがちな過剰投資や大幅な出戻りといった無駄を抑える考え方である。
イノベーションを可能にする発想法のコツ
既存事業を対象とする「漸進型イノベーション」では、これまでテクノロジーが十分に入り込んでいない領域に着目し、適用可能性を模索すること。
新規事業を対象とする「不連続型イノベーション」では、3C(顧客、競合、自社)と4P(商品、価格、プロモーション、流通)に着目し、どれか1つでも変えてみること。
DXの基本プロセスと推進体制
基本的にDXは、「アイデア創出」「PoC(コンセプト検証)」「PoB(ビジネス検証)」「本番移行」「本番稼働」というフェーズを踏んで進められる。そのそれぞれのフェーズではチェックポイントを設け、条件をクリアできなければ次のフェーズには進まないという基本ルールを決めておくことで、無駄な投資を避けることなどが期待できる。また、フェーズごとに主体となる組織等の役割については早期に、できればプロジェクト開始時点に明確にしておくことが望ましい。
DXで変わるこれからの社会・企業・ビジネス
これからの社会を変えるテクノロジーとは?
クラウド、ビッグデータ、ブロックチェーンなど、これからのデジタル化社会を牽引するテクノロジーは多岐にわたるが、中でも重要な役割を担うのがIoT、AI、5G。これらのテクノロジーは単独で活用されるだけでなく、組み合わされることで、私たちがまだ想像もしていない応用分野を生み出していくであろう。
より広範囲に及ぶデジタル化の第2波
デジタル化の第1波の多くは、デジタルネイティブ企業と呼ばれる新興企業で起きたが、第2波では既存の大企業が登場し、バリューチェーンをも飲み込むビッグウェーブとなる可能性が高い。企業の大小、新旧、資本関係、業界を問わずダイナミックな組み合わせによって、新たな社会システムや業界構造が構築されていくであろう。
データ活用は「企業のため」から「社会のため」へ
現在、データのほとんどは企業のマーケティング目的で集められ活用されているが、今後は、生活者や社会・地球に還元するためにデータが収集されるようになる。データとデジタル技術によって、地球環境、食糧問題、パンデミック、防災、過疎地の移動難民など、さまざまな社会問題を解決することが期待されている。
リアルよりもデジタルが基盤となる社会へ
これまではリアルで接点を持つ人が、ときどきデジタルでもつながっているという状態であった。これからあらゆるデータが捕捉可能となると、リアルの世界がデジタル世界に包含されるようになると考えられる。さまざまな分野で、物理から仮想へ、モノからサービスへ、所有から共有へ、消費から循環・再生へといったシフトが進み、オープンで分散型の限りなく費用がゼロに近い共有型の経済システムが形成されていくことが予想される。
デジタル化の時代に生き残っていく企業とは?
どんな事業にも「黎明期」「成長期」「成熟期」というサイクルがあり、「成長のS字カーブ」と呼ばれている。デジタル化の時代に生き残っていく企業とは、1つの事業が成長のS字カーブの成熟期に突入した際、その事業は維持および改善しつつも、次なる事業を探索し、新たな成長のS字カーブを描き始めることができる企業である。
最後に
「これからはDX(デジタルトランスフォーメーション)が重要だ」と、よく耳にはするし、自社でも進めていかなければいけないと思ってはいるが、どのように考え、何をどうしたらよいのか・・・という状態の方には一読の価値があるであろう。これまでDXについて本格的に学んだことがない私でも、豊富な図や具体例により、DXの大枠はつかめたと思う。特にデータに着目したDXの実践パターンなどは、具体的なDX戦略の策定において大いに参考になるだろう。
日本はいつの間にか「デジタル後進国」と言われるようになった。実際、アメリカや中国の事例を見ると、日本が大幅に遅れていることは明白である。そのことを自覚しつつ、まずは本書のような入門書を手に取り、1歩ずつ未来に進んでいくことが大切なのだと思う。