【書評・要約】「塩狩峠」 三浦綾子 著
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「塩狩峠」
本書の紹介
【基本情報】
題名:「塩狩峠」
著者:三浦 綾子
頁数:464p
出版社:新潮社
発売日:1973/5/25(発行)
【あらすじ】※本書裏表紙より
結納のため札幌に向った鉄道職員永野信夫の乗った列車が、塩狩峠の頂上にさしかかった時、突然客車が離れ、暴走し始めた。声もなく恐怖に怯える乗客。信夫は飛びつくようにハンドブレーキに手をかけた・・・・・・。
明治末年、北海道旭川の塩狩峠で、自らの命を犠牲にして大勢の乗客の命を救った一青年の、愛と信仰に貫かれた生涯を描き、人間存在の意味を問う長編小説。
本書を読んでの感想等
以下、多少のネタバレを含むため注意。
1909(明治42)年2月28日、官営鉄道天塩線(現・JR北海道宗谷本線)の名寄駅を発車した列車が旭川へ向かう途中、塩狩峠で最後尾の客車の連結が外れて逆走し、勾配を下って暴走。満員の乗客に死が迫ったとき、鉄道職員の長野政雄が線路に飛び降り、その身体で車輪を止め、自らの命と引き換えに乗客の命を救った。
「塩狩峠」は、この実際の事故を基にした小説である。
小説内の主人公の名前は永野信夫。キリスト教が「ヤソ」と呼ばれて忌み嫌われる時代を生きており、信夫自身も祖母のトセの教えからキリスト教が嫌いな少年だった。しかし、トセの死後、キリスト教徒であることから家を追い出されていた母の菊が戻ってきたことを皮切りに、信夫を取り巻く環境が変わっていき、紆余曲折を経ながら信夫自身も熱心なキリスト教徒となっていく。その中で多くのことを考え、葛藤することで、信夫は自分なりの生き方を見つけ、最後は塩狩峠でその生き方を貫き通して逝くのである。
非常に宗教色の強い作品となっているため、苦手に感じる人も一定数いると思うが、主人公の信夫を始めとする登場人物の生き方には考えさせられるものがある。
一般的に「幸せ」とされるのは、人と比較してわかりやすく上であると判断できる内容であることが多い。人より良い立場、人よりも多いお金、人よりも良い服や靴、家や車など。
しかし、信夫の感じた「幸せ」は別次元のものである。一般的に語られる人との比較によるものではなく、自分の希望にまっすぐ向き合う「幸せ」である。信夫は一般的には不幸とされる若くしての死を迎えてしまったが、その死に顔は笑っているようであったという。最後まで自分の基準で生きた信夫はやはり、きっと、幸せだったのである。
煩悩だらけで悩みの多い私であるが、私も心の持ちようによっては今よりも幸せな生き方ができるだろうか?簡単なことではないと思うが、自分の人生について考えるきっかけになったという点で、読んで良かった小説だったと思う。
以上、拙い感想だが、これを読んで少しでも興味が出た方は是非手に取ってみていただきたい。