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【書評・要約】「雨の降る日は学校に行かない」相沢沙呼 著


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「雨の降る日は学校に行かない」

 

 本書の紹介

【基本情報】

題名:「雨の降る日は学校に行かない」

著者:相沢 沙呼

頁数:272p

出版社:集英社

発売日:2017/3/17

 

【あらすじ】※「amazon」より

保健室登校をしているナツとサエ。二人の平和な楽園は、サエが「自分のクラスに戻る」と言い出したことで、不意に終焉を迎える-(「ねぇ、卵の殻が付いている」)。学校生活に息苦しさを感じている女子中学生の憂鬱と、かすかな希望を描き出す6つの物語。現役の中高生たちへ、必ずしも輝かしい青春を送ってこなかった大人たちへ。あなたは一人きりじゃない、そう心に寄り添う連作短編集。

 

本書を読んでの感想等

以下、ネタバレを含むため注意。

 

本書は「ねぇ、卵の殻が付いている」「好きな人のいない教室」「死にたいノート」「プリーツ・カースト」「放課後のピント合わせ」「雨の降る日は学校に行かない」の6つの物語から構成される短編集で、どの作品も多感な中学生という時期の日常が繊細に表現されている。各物語の主人公はそれぞれ悩みやコンプレックスを抱えており、その日常は非常に不安定である。

今回は6つの物語の中でも、「放課後のピント合わせ」を簡単に紹介したいと思う。

 

主人公のしおりは、地味で目立たない女子中学生で、自分に自信がない。クラスにもなかなか馴染めないでいる。そんなしおりには、小学校からの付き合いの「ナオ」という友達がいる。これまでほとんど同じクラスで、毎日のように一緒に過ごしていた仲である。ナオは可愛らしく、護ってあげたくなるような、誰からも愛される才能に恵まれた女の子。そんなナオは中学生になると人気者になり、友達を増やした。明るく光り輝き、遠い存在に感じられるようになってしまった。

 

クラスに居場所を見つけられないしおりは、インターネット上のコミュニティに居場所を見つけた。そこにスマホで撮ったちょっぴりセクシーな画像を投稿すれば、しおりはたちまちその世界の女神様になれるのである。スマホで撮影する画像は、どれだけ構図を工夫しても、なんだか暗くてざらざらしている。なので、しおり自身は気に入っていないが、そこに集まる男性陣を刺激するには充分であった。ナオのようにクラスで注目を浴びることのないしおりは、セクシーな画像によって集まる注目に酔いしれていた。

 

しかし、事件が起きる。ある日、同じように画像を投稿しても、これまでのように注目が集まらないことに気づいた。コミュニティの参加者に聞くと、「リア」というしおりよりもさらにセクシーな画像を投稿する女神様が現れたからだという。内心苛立つしおりに、「学校でセクシーな画像を撮ってほしい」との要望が・・・。

リアに居場所を奪われたくない一心で、学校での撮影を試みるも、担任の柳先生に見つかってしまう。しおりは絶望するも、先生はセクシーな画像を撮ろうとしていたことに気づかず(おそらく気づかないふり)、しおりに一眼レフを紹介し、それを貸してやると。一眼レフを持ったしおりは帰り道でナオと会い、ナオから「しぃちゃん(しおりのこと)、写真好きだもんね。」「前から写真撮るとき、光の加減とか、構図とかこだわるし、すごいと思っていた。」と言われる。ナオはしおりの撮った写真を見てみたいと言うので、細かく指示を出し、残っていたフィルムでナオを撮影した。

 

その日、家に帰って昨晩の自身のスレッドを見返していると、「気持ち悪い」というコメントが目に入った。昨晩はそれ以降、女神様を賛美するコメントに交じり、いくつも攻撃的なコメントが投稿されていた。気になってリアのスレッドを覗いてみると、そこには自分の身体を惜しみなく露出している女子高校生の画像があった。しかしその画像は光に乏しく、構図もなにも考えられておらず、そしてざらざらと粗い。これを見たしおりは「気持ち悪い」と思ってしまった。実は自分も同じように見えているのではないか・・・。

そんなとき、現像したばかりの写真が目に入った。しおりが撮ったナオの写真だ。はっとして、呼吸が止まる。その写真は、しっかりピントが合って、光をいっぱい取り込んで、黄金色の輝きに満ち溢れている。実際に眼にしたものの何倍も明るく、透明で、綺麗で・・・。スマホで撮った、暗くてざらざらしたものとはまるで違う、自分でもこんな美しい写真が撮れるんだ。

 

「しぃちゃん、写真好きだもんね。」

ナオの言葉を思い出す。彼女は自分のことを見てくれていた。自分でも気づけなかった、知らなかったことを教えてくれた。自分はどうだろうか。自分のこと見てほしいばかりで、レンズを通して彼女を写真に焼き付けるまで、彼女の放つ光をまっすぐ見ようとしていなかったのではないか。

このことをきっかけに、しおりはナオだけでなく、他のクラスメイトのこともまともに見ていなかったことに気づき、変わっていくのである。

 

 

ここでは他の5つの作品については触れないが、どの作品も一つ一つは短いながらも、非常に考えさせられる内容となっている。自身が中学生のとき、誰とも関わろうとしなかった窓際のあの子は・・・と、今になって考えることとなった。

本書は短編集で非常に読み進めやすいボリュームであるため、もし興味をお持ちになれば、ちょっとした時間に読むのに最適な作品である思う。

↓今回私が読んだのは単行本だが、文庫本もある